刑事事件で公訴棄却判決
犯罪をした方を処罰するに当たっては,国は刑事裁判を行わなければなりません。これを訴えられた側からすると裁判を受ける権利となります。しかも,形式的に裁判を行うだけではなく,訴えられた被告人の方が憲法や法律で認められた黙秘権等の権利を行使できなければ実質的に裁判を受ける権利が保障されたことになりません。
そのため,刑事訴訟法は被告人の方が精神障害等を来し,そのために防御権を有効に行使できるような能力がなければ,裁判は停止するとされています。この防御権を有効に行使できるような能力を訴訟能力といいます。
これまでは,被告人の方に訴訟能力が欠けた場合,裁判が停止し,十数年も裁判が停止し,いつまでたっても裁判が終わらず,被告人の方が処罰されるかどうかわからないという不安定な立場におかれることになっていました。ごく例外的に検察官が,明らかに訴訟能力を欠き,回復可能性も全くない場合には,起訴を取り消すことがあった程度です。
しかし,最高裁平成28年12月19日第一小法廷判決(刑集70巻8号865頁)で,訴訟能力に回復可能性がないような場合には,裁判所が判決で訴訟を打ち切ることができるという判断を下しました。
以前,私が,東京高裁で弁護した被告人の方は,心身ともに重大な障害を持っている方で,仮に有罪判決が出たとしても一人では寝起きできず,日常生活を一人では営めないほどに精神的にも障害のある方でした(なお,事案としても被害者の存在しないものでした)。私が,医師や福祉施設に協力を求めた上で鑑定が実施された上,裁判所に対し,このような方については訴訟能力が欠如し,回復可能性がないことを主張し,刑罰を科す実益もないことを主張したところ,その主張が認められ,公訴棄却の判決が出されました。
犯罪をした人が,法律に従って適正な処罰を受けることは当然ですが,刑罰を科することに意味が全くない場合に,不必要な身体拘束をすることは,人権上,問題があると言わざるを得ません。
私の活動により被告人の方が,再び安定した生活を送れるようになったことはうれしいのですが,被告人の方の弁護ととも犯罪という不幸のない社会の実現のためにもできる努力をしていきたいと思います。
弁護士 屋宮昇太