医療事故調査制度について

1 制度の概要

 医療法第6条の10では、いわゆる医療事故調査制度が定められています。これは病院が「医療事故(当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるもの)」について、医療法で定められている第三者機関の医療事故調査・支援センターに報告し、同センターが調査した結果を遺族等に説明するという制度です。

 この制度は、平成27年の医療法の改正時に定められましたが、その目的は「医療の安全を確保するために、医療事故の再発防止を行うこと」とされています。

2 医療事故とは何か。

 この調査対象となる医療事故は、病院で生じた死亡・死産について①病院側が予期しなかった、②医療行為から生じたものとなります。

①の病院側の予期は、単に病院側が事後に「予期していました」というだけでは足りません。医療法施行規則第1条の10の2に「予期していた」といえるための要件が定められています。具体的には、Ⓐ病院等の管理者が、当該医療が提供される前に本人や家族に対して予期されることを説明していた場合(1号)、Ⓑ病院等の管理者が、当該医療が提供される前に診療録等に死亡や死産が予期されることを記録していた場合(2号)、Ⓒ病院等の管理者が、担当医等からの事情の聴取及び病院内での医療安全管理委員会(規則第1条の11第1項2号)からの意見の聴取を行った上で、当該医療が提供される前に予期していたと認められる場合に限られます。これらも単に、「予期していた」ということだけを説明したり、記述するだけでは足りず、臨床経過等を踏まえた説明、記述等をする必要があるとされています(平成27年5月8日医政発 0508 第1号)。

 また、②医療行為から生じたことも必要ですから、病院内での患者の転倒から死亡した場合などは医療行為以外の原因であるとして医療事故には該当しません。

 ただし、これらの判断は、病院側が行うこととされており、遺族側で調査を行うことを求めても、病院側にこれに応じる義務はありません。

3 調査の開始と調査結果の遺族への説明

 病院は、医療事故と判断すると医療事故調査・支援センターに報告することとなります。この後の調査は大きく3つの類型があります(㋐院内調査、㋑病院が委託した支援団体による調査、㋒同センターによる直接調査)。いずれのルートにせよ最終的には、同センターも独自に調査を実施することになります。同センターは、この調査結果については、調査結果報告書を医療機関だけではなく、遺族にも交付することとされています(平成27年5月8日医政発 0508 第1号)。

4 遺族としての活用

 この調査結果報告書については、損害賠償等の法的責任追及について利用することは特に制限されていません。実際に、この調査報告に基づいて病院が責任を認めて賠償をしてくることもあります。

 したがって、遺族としては、病院での親族の死亡や死産について、病院側の治療行為に納得できない場合は、病院側からの説明をまずはよく聞いて、それでもなお納得できない場合には、病院側に医療事故調査制度を利用することになるのかどうかを確認してみることをお勧めします。

 また、この様なときは医療事件に詳しい弁護士に早めに相談し、逐一、アドバイスを求めていくことが大切です。