建築請負紛争と裁判外での紛争解決手続(ADR)
マイホームの新築工事をお願いしたが,手抜きや不具合(欠陥)があった,契約した仕様と違っている,あるいは,追加工事を頼まれたが追加工事代金を支払ってもらえないなど,建築工事に関連する争いは結構多く発生します。しかし,この種の紛争では,法律的な問題だけでなく,建築工事に関する技術的な問題,あるいは設備に関する専門的な問題等が存在し,当事者間での話し合いでは解決の見込みが立たない場合があります。建築紛争は,裁判の中でも難しい部類に属し,東京地方裁判所でも,この種の事案を専門的に扱う専門部が存在するほどです。
当事務所においても,大きなショッピングモールの建設工事から,マイホームの工事代金の紛争に至るまで,多くの事件を扱っておりますが,ここでは”裁判までやるのはちょっと”とちゅうちょしてしまう場合に,専門家による迅速かつ簡便な解決を図ることを目的とした紛争解決機関について紹介します。
建築工事に関する裁判外の紛争解決機関にも色々ありますが,その草分け的な存在としては,各都道府県に設置されている「建設(けんせつ)工事(こうじ)紛争(ふんそう)審査会(しんさかい)」があります。当事務所にも東京都の紛争審査会の委員をしている弁護士がおりますので,その弁護士の説明を簡単にまとめてみます。
この審査会では,建築請負契約に関連する紛争について「調停(ちょうてい)」「あっせん」「仲裁(ちゅうさい)」という手続きができるようになっていますが,最も多く利用されているのは「調停」手続きです。これは,あくまで当事者の歩み寄りによって解決を目指す手続であり,法律委員1名,専門委員2名の合計3名の調停委員で話合いが進められます。法律委員はベテランの弁護士や元裁判官から構成され,法律的な観点から事案の問題点を探るとともに,話合いの進行役を務めます。専門委員は,一級建築士や建築事務所の代表者,あるいは土木関係や設備関係の専門家,さらに構造設計の専門家などから構成され,事案に応じて編成が変わります。したがって,請負契約の法律的な問題点はもちろん,提出された図面や見積書,工事の進捗状況や工事の実態等から,技術的,専門的な問題点をあぶり出し,ある時は問題点の整理をし,ある時は専門家の観点から指摘を行ない,さらに,事案によっては調停案を提示するなどして,問題解決の方途を探ります。
もちろん,調停は話合いの場ですから,証拠によってギシギシと詰めていくことはしませんが,建物の発注者も,これを請負った建築業者も,自分たちのやっていることや考え方が専門家の公平な目で見た時,どのような評価を受けるのかということが,ある程度分かります。そのようなことから少し考えを改めて,譲歩してみようといった態度も生まれてくるわけです。また,工事の規模や,争いの大きさからいって,弁護士に依頼して裁判までするのはどうかといった場合でも,裁判ではなく,弁護士にも依頼しないで,この制度を気軽に利用している方もいるようです。
「調停」のほか「あっせん」と「仲裁」がありますが,「あっせん」も話し合いを行う手続ですが,技術的,法律的な争点が少ない場合に利用するもので,委員も1名だけで担当します。「仲裁」は,紛争の解決を審査会の判断にゆだねる「仲裁合意」に基づいて行われ,仲裁委員3人が,当事者の言い分を聞きながら,証拠に基づいて裁判所に代わって判断を下します。仲裁判断が下された場合,その内容について裁判所で争うことはできません。
建設工事紛争審査会のHP
http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_mn1_000101.html