医療ADRについて

 医療に関するトラブルが発生したとき、患者の本人が、医療ミスであることを主張して損害賠償等を求めて交渉することは簡単ではありません。任意の話し合いで解決しないときには訴訟を起こす場合もありますが、それ以外の方法でADR(裁判外紛争解決手続)を申し立てるという選択肢もあります。

 東京三弁護士会では、2007年9月より、医療ADRが実施されています。この手続きは、弁護士会から選ばれた3名のあっせん人(患者側代理人の経験が多い弁護士が1名、医療機関側代理人の経験が多い弁護士が1名、あっせん一般の経験豊富な弁護士1名)が、当事者である患者と医療機関双方の主張や証拠を踏まえ、話し合いによる解決を図るものです。

 具体的には、一方当事者(例えば患者)が、弁護士会に対して、申立書と根拠となる証拠を提出して、医療ADRの申立てを行うと話し合いの期日が指定され(通常弁護士会の会議室で行われます)、相手方(例えば医療機関)に通知が発せられます。ただし、相手方としては、これに応ずる義務はありません。

 申立てを受けた側(先ほどの例だと医療機関側)が、医療ADRでの話し合いを望む旨の回答があると、双方が期日に出頭し、弁護士会で選任された3名の弁護士が交代に会議室に入り、個別に話しを聞かれることになります。話し合いの結果、あっせん人から和解案が示され、これに双方が応じれば和解成立として解決します。

 また、当事者が、あっせん人から提示される解決案(仲裁案)に従う旨の合意がされれば、あっせん人が仲裁案を提示しそれが判決と同じ効力をもつという手続きがされることもあります。

 このように話し合いによる解決を図る医療ADRは、医療機関側が強く過失を争うような事案には向かないが、医療機関側が医療行為に問題を感じているが損害賠償額に争いがあるような事案ではより有効であるとされています。

 当事務所としても、任意の話し合いでは解決しなかった事案で、医療ADRを申し立て、医療機関側から損害賠償を受ける解決をできたことがあります。今後も、医療紛争の適切な解決のために様々な制度を活用していきたいと思います。

以上