本人のためと思っても背任罪になることがある?

1 刑法第247条は「他人のためにその事務を処理する者が,自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を与える目的で,その任務に背く行為をし,本人に財産上の損害を加えたとき」は背任罪が成立するとしています。会社法960条は、会社の役員等については特別背任罪としてより重たい刑罰を科しています。

2 背任罪の典型例として、銀行の金員を貸し付ける権限を持っている融資担当者等が、返済能力のない会社等に十分な担保もなく多額の資金を貸し付けて銀行に損害を与えるような不正融資の場合があります。

3 このような背任罪が犯罪とされるのは、本人(上記でいえば銀行)との委託信任関係に違背して本人の財産を侵害することを防止するためであるとされています。

4 背任罪は、条文に「自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を与える目的」(これを図利加害目的といいます)とあるとおり、図利加害目的がなければ処罰されません。この要件がなければ、上記の銀行の例だと融資担当者が「銀行に損害を与えるかもしれない」とさえ思っていれば、結果として債権回収ができず銀行に損害を与えてしまった場合に背任罪に問われるということになりかねません。それでは、どの銀行も処罰されるのを恐れてお金を貸せなくなり、経済活動が停滞してしまいます。

5 では、この図利加害目的は、どのような場合にあるとされるのでしょうか。

  条文にあるとおり、この図利加害目的は、「自己の利益を図る目的」(上記銀行の例でいえば融資担当者の利益を図る目的)、「第三者の利益を図る目的」(上記銀行の例で言えば融資先の利益を図る目的)、「本人に損害を加える目的」(上記銀行の例で言えば銀行に損害を与える目的)を意味しますが、これは、図利加害の意欲や積極的認容まで必要とするものではなく、「本人の利益を図る目的」(上記の銀行の例で言えば銀行の利益を図る目的)が存在しないことを裏側から規定したものだと言われています。

4 では、上記のような図利加害目的と「本人の利益を図る目的」が併存する場合は、どのように考えるのでしょうか。

  判例は、両者の目的の主従によって背任罪の成否を決定すると判断しています。

  この点、銀行が返済困難な顧客に十分な担保もなく多額の資金を融資した事案で、融資先の利益(第三者の利益)に関する認識がある場合、仮に、“当該融資が、ひいては本人(銀行)の利益も図られる”という動機があったとしても、それが融資の決定的な動機ではなかった場合(銀行の利益を図る必要性・緊急性もない安易な融資等)は、融資先の利益を図る目的(第三者の利益を図る目的)が「主たる目的」であったと認定して「第三者の利益を図る目的」の存在を肯認して犯罪の成立を認めました。

5 融資に限らず、失敗してしまうリスクのある事業に挑戦して結果的に失敗してしまった場合、背任罪に問われる結果となっては経済活動が不当に停滞してしまいます。正当な経済活動が不当に停滞しないよう弁護活動する役割も弁護士には求められていると言えると思います。                            以上